《特別寄稿E》

「フランスのエホバの証人に関する裁判例」

 1985年2月1日社団法人「フランス・エホバの証人」事件判決について事案は、ある男性の遺言によって社団法
人「フランス・エホバの証人」会に総額7万5千フランが包括遺贈されることになったが、オー・ド・セーヌ県知事は、1
982年4月、同会によるこの遺贈の受領を認可しない旨の決定をおこなった。

 そこで、「エホバの証人」側が不服申し立てをしたものの政府命令は、知事の決定を正当とし、行政による受贈認
可が最終的に与えられなかったので、「フランス・エホバの証人」がその命令の取り消しを訴求したというも
のである。

 その訴えに対して1985年2月1日、コンセイユ・デタは、エホバの証人側の請求を棄却する判決を下した。
(判決理由省略)

 コンセイユ・デタ判決は、「エホバの証人」の特定活動の内容を理由として原告社団が、「もっぱら礼拝の執行を目
的とする」団体であること自体を否認し、そもそも政教分離法上の信徒会に該当しないと判断した。

 以上の内容は、大石眞著「憲法と宗教制度」208項以下 有斐閣1996年10月発行から引用した。

 私見であるが、フランスではカトリックなどの既成の宗教組織の勢力が強いだけでなく、宗教団体に関する法律も
日本のように統一されておらず、いわゆる新興宗教フランスではセクトと呼ばれる)の大多数は、政教分離法上の宗
教法人としてではなく、より一般的な結社法上の団体として活動している。
このため、遺贈財産の受贈についても行政庁の裁量により決定されている。

 ところで、判決理由では、エホバの証人の宗教活動の具体的内容について何もふれられていないため推測の域で
あるが、主な敗訴判決の理由として、輸血拒否による幼児の殺人罪などの経緯が関係しているようである。

 さて、日本において、宗教団体または宗教法人は、憲法により信仰の自由を保障されており、宗教法人法の要件
を充足するなら、オウム真理教のような例外は別として解散命令を受けることは希である。

 しかし、私は根本的な問題が見過ごされているように思う。すなわち、宗教とは何か。
信教の自由を保障される宗教団体と単なる資金獲得のため形式的に宗教法人の覆いをかぶったセクト(アメリカでは
カルト)を誰が識別し判断するのか。さらに、もしある宗教団体が巧妙なマインド・コントロールにより信者を獲得し、人
生の大半を支配し、貴重な財産を奪い、軍事産業に株式投資しながら、信者には事実を隠し、北朝鮮のように地上
の楽園の希望をただ語っているだけであるなら、その団体は、日本国憲法によって保障された信仰の自由を実践し
ているといえるだろうか。

 そもそもそのようなグループが正当な宗教法人として税法上の優遇措置を受ける資格があるだろうか。

 先に引用したフランスでの裁判例は、セクトの関する先例として大きな影響を与えているが、日本においてもセクト
に関する法整備が必要だと思う。


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