《特別寄稿D》 
二世の子供たちへ・ある母親の叫び
                           ―真実の親子関係とは―

私には離婚の経験があり、当時5歳の娘、奈緒と別れました。
 今から何年か前に、奈緒と11年振りに再会できました。奈緒が16歳。高校二年になる前の春休みでした。再会の
前日に電話でじっくり話したとは言え、そんな会話自体も、逢うのも11年振りでした。5歳のちっちゃかった子が、私の
背丈を追い抜いていました。私はその前年にバプテスマを受けたばかりでした。


 奈緒は私を一言も責めもせず、いっぱいの笑顔で、11年の空白など感じさせないように私を受け入れてくれました。
まるで私の方が情けない子供のようでした。奈緒はパパに似てとても性格の良い子でした。幼い時から優しくて思い
やりがあり、聞き分けの良い子でした。16歳になっても、そのままの心の美しい娘に成長していました。何故こんな
可愛い子を手放したのか、娘に詫びる気持ちと、自分を責める思いと、離婚への後悔で涙が溢れました。
それと同時に『エホバは、奈緒が「信者では無い」と言う理由だけで滅ぼすのか?』と、とてもやるせない気持ちにな
りました。この子は滅びて欲しくない!と強く思いました。

 逢えたのは一日だけで、私の住所をメモして別れました。
一ヵ月後、「心の整理に今日までの時間が必要でした。」と手紙が届き、奈緒との文通が始まりました。奈緒は、私
への思い、学校での事、進学の悩み、友達の事、通学電車内での出来事、奈緒自身の事など、毎回、毎回、分厚い
手紙をくれました。月に2回の定期便でした。
私も一生懸命、手紙を書きました。手紙の前半は奈緒への返事、後半は必ず聖句を書いて証言しました。「この子だ
けはエホバを知って救われて欲しい。」との思いで必死に書きました。奈緒は「あの聖句は真理だと思いました。」な
どと良い反応をしてくれました。でもそれは、否定して私を傷つけたくない奈緒の優しさと、もう二度と母親に捨てられ
たくない思いからだったのでしょう。

 それに気付かず、ある時は奈緒の区域の姉妹に連絡して、訪問をお願いしたり、ワンピースを縫って送り、記念式
に行くよう強制したりしました。「救われて欲しい」の一念だったのです。奈緒はその通りにしてくれました。
四年ほど経過したある日、いつもとは違う薄っぺらい手紙が届きました。開けると、殴り書きで、涙の雫でインクがに
じんだ一枚の便箋でした。
『私は、エホバなんか大嫌いだ!私はお母さんに諭してなんかいらない!教えてもいらない!聖句なんて神の言葉
なんか欲しくない!叱る言葉でもいい、怒る言葉でもいい、私はお母さんの、お母さん自身の血の通った言葉が欲し
かった!!』

 何と言う愚かな母親でしょう。私は奈緒が救われて欲しいばかりに、間違った愛の押し売りをして、奈緒の心を何年
も傷つけていたのでした。組織の教えてる愛は本物じゃない事を奈緒があの短い手紙で教えてくれました。

 二世の方たち、貴方達は心も身体も傷つきました。親は貴方が憎くてしたのではありません。貴方を愛すればこそ
だったのです。間違った教えに気付いていなかったのです。奈緒は四年という短期間で、鞭も知りませんが、今でも
「辛かった」と言います。期間も長く、鞭の経験がある貴方達の辛さや傷は、とても深く大きい物だと理解します。
しかし、短期間の私でも後悔し、自分を責めています。鞭を与えた親ならその後悔、自責の念は私の比ではないでし
ょう。
奈緒のように、苦しみや正直な気持ちや思いの丈をを親御さんに伝える事はできないでしょうか?
聖書の言う「神との和解」など、どうでもいいことです。大切なのは「親子の和解」だと私は思います。



 私たち母娘には長い空白の時間があった故に、お互いにそれを埋めようと必死でした。
奈緒はいつも素直な直球で来ました。再会してからのあの四年の間に泊まりに来た事もありました。一緒に洗濯物
を畳んでいても「うれしい!お母さんとこんな事がしたかったの!」と、本当に嬉しそうに言うのです。買い物に行って
も、腕を組んで来るし、ケーキ作りや料理をしても、「お母さんとショッピングに行ったとか料理作ったとか話す友達
が、ホントに羨ましかったんだ。夢が叶って、奈緒は幸せ!お母さん、ありがと。」と言うのです。
奈緒は一度だって「なぜ私を捨てた。何で離婚した。11年間どんなに苦しんだか。」などとは言わない子でした。

 あの手紙の後、音信不通になりましたが、一年後に再び薄っぺらい手紙が届きました。
『お母さん。今流行ってるkiroroの「未来へ」って歌知ってますか?あれは私の気持ちです。友達とカラオケに行くと、
お母さんに届けとばかりに歌っています。機会があったら「未来へ」を聞いてみて下さい。お母さん、奈緒の事、好き
ですか?愛してくれていますか?私は、お母さんの一番でいたいのです。エホバの次ではイヤです。』

 今は奈緒と良い母娘関係でいます。
二世の方たち、素直な気持ちを、親御さんに投じて下さい。
親の皆さんも心で詫びるのではなく、どんなに愛しているかを言葉や文字で伝えてあげて下さい。
私と奈緒のやり方が全ての人に当てはまるなどとは思ってもいません。
さらに複雑な親子関係の方がおられるの事も理解しているつもりです。
親子関係を見つめ直す小さなきっかけになるのなら、との思いで書き込みました。
  

(注…この記事は「自由への旅立ち」BBSに9月13日14日に渡り投稿されたものです。子どもは本当は何を求めてい
るのか、真実の親子関係とは何なのか考えさせられる内容で多くの人たちに是非読んで頂きたいと思い、ご本人の
了解を得て、「特別寄稿コーナー」に保存させていただきました。尚、文中の太字の強調は、こちら編集室でさせてい
ただきました。)


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